昨年の夏に参加させて頂いた「日本臨床エンブリオロジスト学会」が来年早々1月に開催されます。
https://embryology.jp/25th.html
その学術誌が届きました。
その中に、非常に興味深い教育講演がありました。
「受精卵は胚発生に必要な栄養を自給自足できる?」
その様なテーマでの基調講演が開催される予定です。
このアブストラクトをお伝えさせて頂くと
① 成熟した卵子の細胞質には「核酸」「タンパク質」が豊富に含まれている
② これらは受精後に急速に分解→受精卵へ
③ この分裂には「オートファジー」という分解機構が大切。
④ オートファジーは栄養不良時に細胞にエネルギーを供給する役割
⑤ 細胞質には「脂肪滴」というエネルギー源がある
⑥「脂肪滴」を選別的に除去した場合、胚発生は完全に停止する
【Tsukamoto S.Seience 321(5885),117-120.2008/ Tatsumi T Development 145(4).dev16189.2018】
上記の見解から
「脂肪滴」
という成分がエネルギー源になり、オートファジーを活性化することが考えられます。
では、この「脂肪滴」とはどの様なものでしょうか?
判りやすくこちらの資料が説明されています。
https://www.qst.go.jp/site/press/1235.html
「正常卵と比較したところ、Forcedリポファジー卵では、脂肪滴(脂肪含量)が半減すると、着床前の胚盤胞まで発育する割合も半減する」(本文より)
脂肪滴はミトコンドリアや小胞体などと同じで
細胞小器官(オルガネラ)です。
この小器官には
① トリアシルグリセロール(中性脂肪) ② コレステロールエステル
が貯蔵されて、細胞が飢餓状態の際には遊離脂肪酸を出してエネルギーにします。
この ②コレステロールエステルとはコレステロールの構成要素の一つです。
コレステロールエステルは血液に乗って、コレステロールとして身体を輸送されていきます。
受精卵の分裂の一因となる脂肪滴を活動させる為に
コレステロールを卵子へ供給しておく
必要性も考えられます。
コレステロールと卵巣年齢と言われるAMHが関与している研究を福岡の古賀文敏先生が2017年の日本生殖医学会で発表されています。
1)2015年11月から2016年6月までの間、649名を対象に実施
2)総コレステロール値を4群に分類/平均年齢
①A群 150mg /dl以下
②B群 150〜170mg /dl
③C群 170〜220mg/dl
④D群 220mg/dl以上
3)A~D群のAMH(抗ミュラー管ホルモン=卵巣年齢)比較検討
4)結果
AMH値 | ||
A群 150mg /dl以下 | 2.16ng/ml | D群に対して有意差+ |
B群 150〜170mg /dl | 2.77ng/ml | D群に対して有意差+ |
C群 170〜220mg/dl | 2.87ng/ml | D群に対して有意差+ |
D群 220mg/dl以上 | 3.71ng/ml |
【古賀文敏ら:抗ミュラー管ホルモンは総コレステロールと相関する.日生殖会誌62巻4号.2017】
この研究結果から、コレステロールが高い程に卵巣年齢は維持できている事が示唆されています。
とても、判りやすくいえば、ある程度、身体に脂肪を貯留しておく必要性があります。
当院で提供させて頂いている「脂質」のサプリメントを取り入れた方の妊娠率が高い事もこの機序が一因になっていると考察しています。